その秘密は意外なところにあった
活き活きとした会社の社員は、目が輝いている。そんな会社が増えれば、ニッポン全体が元気になる。高度成長やバブルを懐かしんでいる場合じゃない。彼らから学ぶことで明るい未来が開けてくる。
社員が拍手した社長の英断
「震災当初のこと、被災地の倉庫に次々と救援物資が運ばれてくるものの、現場が混乱していて本当に必要な物資が避難所まで届かない状況がありました。それを知った弊社の社員が、自治体の職員に直談判で申し出て、本部の指示命令も待たずに、救援物資の配送を行っていました。みずからも被災者であるにもかかわらず、です。
弊社の社訓には『ヤマトは我なり』という言葉があり、これには社員一人ひとりがヤマトグループの代表であることを絶えず意識して行動するという意味が込められています。今回の震災では、この社訓が社員に深く刻まれていることをあらためて実感しました。社員は『ヤマトは我なり』を実践してくれた、それでは会社は何をするべきか。その答えが『宅急便1個につき10円の寄付』でした」(ヤマトHD・木川眞社長)
消費者がかつてなく厳しい目で企業を見る時代---そうした中で消費者のみならず、取引先などからも絶大な信頼を受けている日本企業がある。その共通点を探ると、いまどき好調な企業の秘密が見えてくる。
まずは、宅配便大手のヤマトHDの事例を紹介しよう。東日本大震災を受けて同社では「宅急便1個につき10円を寄付」することを決定、寄付金は被災地の事業者に助成している。助成を受けた被災企業からこんな感謝の声が届いた。
「秋サケは1尾の重さが平均4kgあり、その加工作業は大変な重労働なので、自動処理マシンは加工業者にとって必要不可欠のものです。震災で全部ダメになってしまいましたが、新たに購入したくても資金の借り入れができないどころか債務の返済にも手が回らない状況でした。今回の助成で購入し、今後は新たに技術や流通経路を集約することで大槌町としての共同商品をプライベートブランド化して全国に提供していきたいと考えています」
こうした声はほかにも続々と届いている。
実例を挙げれば福島県の水族館「アクアマリンふくしま」は、8000万円の助成金を使って設備を改修、熱帯魚などの飼育展示ができるようになった。同じく福島県の相馬港では助成金1億300万円を使ってクレーンを整備・修理、昨年12月にコンテナ航路が再開している。
ヤマトHDが昨年4月から年末までに取り扱った宅急便は約11億780万個(累計)で、寄附金は110億7800万円に積みあがっている。同社の年間純利益の4割にも相当するのだから、並の企業には決断できない額だ。
どうしてこんな多額の寄付を行っているのか。木川社長はこう語る。
「復興支援を国に任せきりでは時間がかかる。税金だけで賄うには財政的な制約がある。長くかかればかかるほど、被災をされた方の苦しみは長引き、産業は立ち直りのきっかけを失いかねない。少しでも早く再生できるように民間企業が立ちあがり、結束しなければならない。そうした具体的行動につながる一石を投じられればと思い、寄付を始めました。
震災直後の4月1日、社長就任の挨拶で『宅急便1個につき10円の寄付』のアイデアを幹部社員にぶつけてみたら、大きな拍手が起こりました。私は涙が出るほど嬉しかった」
ヤマト自身も被災企業である。全壊した事業所、全損した車両もある。死亡した社員もいた。自社のことだけを考えれば、寄付どころではなかったはずだ。それでも被災地支援に取り組んだのは、冒頭に木川社長が語った『ヤマトは我なり』の精神があったからだ。
ヤマトだけじゃない
欧州発の世界同時不況にあえぐ日本企業は多い。いま改めて企業の戦略が問い直される中で、「会社のメンタリティ」に注目が集まり始めている。こんなときでもうまくいっている会社は共通して、「独自のメンタリティを持つ」ことがわかってきたからだ。
東日本大震災を受けて、企業の〝海外逃亡〟が絶えない。新たな震災の恐怖だけでなく、超円高、高い法人税などを嫌って、拠点を次々に海外に移し替えている。おのずと国内の雇用は激減、特にかつて企業城下町として栄えた地方都市では失業者が続出している。
そんな中にあって、昨年12月、宮城県・石巻市に本社を移転したのが『築地銀だこ』などの飲食チェーンを展開するホットランド。同社もまた、独自の活動を行い、高成長を維持している企業だ。
実は同社の被災地支援の取り組みは、「移転以前」から始まっていた。
震災直後に1台の「銀だこカー」を走らせて、被災地での炊き出しを開始。さらに一過性のボランティアではなく継続的な被災地経済の下支えが必要だと感じた同社代表取締役の佐瀬守男氏主導で『東北応援プロジェクト「明日もがんばろう!」』を立ち上げた。被災地応援ソングを作り、これを全国の『築地銀だこ』の店舗で流した。
被災地支援活動の賛同者に声をかけて石巻市に復興商店街「ホット横丁石巻」を開設、その運営会社を石巻市に設立したのは昨夏のこと。本社移転の半年ほど前には、すでに被災地に会社を立ち上げていたのだ。
ホット横丁石巻は銀だこ、ホットドッグ専門店、居酒屋などが入る〝一大商店街〟。そこで働くのはほとんどが地元の被災者である。
現地ではこんな声が聞こえてくる。
「石巻市に100人ほどの雇用が生まれました。横丁は地元の人々を雇うということでやっていただいたので、本当にありがたいです。ホットランドさんは被災地支援の規範、さきがけであってくれたと思います」(石巻商工会議所)
「石巻市は中心市街地でもまだ再開できるお店が少なく、まだまだ復興は進んでいない。そんな中で横丁は石巻の人々の憩いの場になっています。横丁では催し物もやっているので、市民の復興意識を高める力にもなっている。再生に向けた、前向きな希望の道しるべとなっていることは間違いありません」(石巻市役所商工観光課)
ホットランドは今後も蛸の加工工場の開設なども計画しており、地元からはさらに大きな雇用が生まれると期待されている。たった一店の焼きそば屋から始まり、創業20年で売上高200億円規模の会社にまで成長した同社は、いま被災地・石巻から次の目標である「売上高500億円」を目指している。
「ホットランドは昔から全国の養護施設を回ってたこ焼きをふるまうボランティア活動を行ってきた。佐瀬氏には『ただ儲ける』だけでなく、事業を通じて『ほっとした安らぎ』を提供したいという強い信念がある。
一般的に発展途上の企業は『儲けるにはどうすればいいか』と発想しがちだが、ホットランドの場合は先にビジョンがあって、それを実現するために事業を成功させたいという発想。今回も被災地を支援したい、でも事業がうまくいかなければ支援もままならない、だからより一層次の目標に向かって頑張れるという強い心意気を感じます」(ソーシャルプランニング代表の竹井善昭氏)
「精神」で差別化する
直接的な利益につながらないボランティアや寄付は、余裕のある企業だけが行う噦慈善事業器だと語られてきた。しかし、いま「好調」な企業を見渡すと、たとえ苦しいときでも矜持や理念をもって、社会貢献をしているところが多いことに気づかされる。
たとえば今回の東日本大震災を受けて現地に多数の社員をボランティアとして派遣した大手総合商社の三菱商事もその好例。いまでこそ絶好調の同社だが、商社冬の時代と言われた厳しい時代にも、創業以来の三綱領なるものを守り、積極的な社会貢献活動をしてきた実績がある。
こんな時代にあって今年度中間決算で最高益を更新したコンビニ大手のローソンも、震災翌日に社員100名を被災地支援に送り込んだことが話題になったが、かねてより環境保護に熱心で、CO2排出量を減らすために20年かけて納品車両の台数を2分の1以下に減らすなどの地道な活動を続けてきたことはあまり知られていない。
いまどうしてこうした企業が見直されているのか。
「背景にあるのは、世界中で各国の企業がしのぎを削るグローバル競争。画期的な商品やサービスというのは生まれにくく、作れてもすぐに他社に真似されて、同じような商品が量産され、価格安競争に陥るのが関の山です。だが、企業の『精神』や『風土』というのは差別化の余地がある。そうした中で『私利私欲を離れて消費者や地域社会に貢献する』といった行為は支援した相手がユーザーとなって戻ってくるし、長期的には強固な信頼関係を築ける。社員もこうした経験を通じて団結し、働く意欲を高めることになる。その気質が競合他社との差になり、長期的に見て企業の強みとなっている」(上武大学教授の田中秀臣氏)
もちろん社会貢献と一口にいっても、一朝一夕にできるものではない。今日から寄付を始めれば、それだけで儲けが増えるというわけでもない。中には税金逃れや宣伝目当ての下心で寄付を行う企業もある。
「特に社会貢献を喧伝するような会社には期待ができない。大々的に宣伝して、専門の部署を作って、寄付を始めた企業ほど、業績が悪くなるとすぐに撤退する。大切なのは継続してできているかどうかであり、そうした企業は事業そのものに社会貢献を組み込んでいるところが多い。
たとえばユニクロを展開するファーストリテイリングは障害者雇用を積極的に行っているが、ほかと違うのは障害者を健常者と同じように働かせるモデルを採用していること。通常業務に不可欠な戦力として採用を行っている。惣菜大手のロック・フィールドも静岡の自社工場に風力発電所を設置。その電力で工場で使った水を浄化して、自然に戻している。さらに工場内には浄化した水が通る緑地も作り上げ、野鳥が集まる自然公園のようになっている」(一橋大学大学院教授の楠木建氏)
目先の利益を追わない
要するに本気度が違う、やると決めたら継続する意思もある。ファーストリテイリングやロック・フィールドは厳しい業界環境にありながら利益を稼ぎ出しているが、こうしたメンタリティが企業の活力になり、好業績を生み出すパワーとなっているのだ。
次の例も知られざるエピソードだろう。
「いまヤクルト本社がアジアを中心として新興国で大人気になっていますが、その背景には'70年代から始めている社会貢献活動がここへきて実っているという点が見逃せない。
'70年代当時、自動車、電機メーカーが一斉に欧米に進出する中、同社は途上国に進出した。その目的は、医療環境が未整備で薬価も高い途上国で問題化していた健康問題を、消費者に手の届く価格でヤクルトを提供することで解決しようとしたことにある。しかも現地の人をヤクルトレディとして採用することで、女性に就業機会を与えることまでしている。そうした同社の熱いハートや心意気が長い年月を経て理解され、世界同時不況下でも絶好調の業績を上げる〝土台〟となっているのです」(企業経営に詳しいジャーナリストの勝見明氏)
日本に残る「100年企業」にも、社会貢献のこんな精神が息づいている。
「カマボコ業界は生産量が30年前をピークに右肩下がり、業者数もピーク時の2500社から1000社へ激減している。その中で1865年創業の鈴廣はいまだ健在です。
同社が先代からずっと語り継いでいる言葉に『こすからいことをやると天罰が下る』というものがある。いまも社長はそれを守って、『後ろめたい気持ちが残るような仕事だけはやりたくない』『100年も150年も商売をやらせてもらっているのにそんな経営をしてしまっては申し訳ない』と考えている。無謀な事業に走らず、ただカマボコ業を確実に継続していくことが与えられた使命として経営してきた。それでこの会社はいまも元気に生き残っている」(経営コンサルタントの岡本享二氏)
目先の利益を追うあまり短期間で消費され捨てられてしまうようなモノ作りをする企業がバタバタ倒れていくのを横目で見ながら、ヤクルト本社、鈴廣の両社は必要なモノを、必要なだけ、必要な人に届けるという企業の本分をまっとうしてきた。そんな当たり前のことが、企業の生き残りの「重要条件」となっているのだ。
そしていま世界中の市場が開拓され、消費が飽和状態となる低成長時代に入った。パイの拡大が頭打ちになる中で、それを独り占めしようとする企業には消費者からの容赦ない制裁が下る。「自分だけが儲かればいい」と考えている企業が生き残れないのは、ウォール街から始まった反格差社会デモを見ても明らかだ。
「あまり知られていないが、アメリカでは市民団体が'80年代から『ショッピング・フォア・ア・ベターワールド』という本を出版し、何度も改訂版が出されている。これはどういった企業が、環境保護などどのような社会貢献を行っているか、また逆にどのような環境破壊活動を行っているかを詳細に評価しているもの。大量消費国家と呼ばれるアメリカでさえ、消費者は企業の〝傲慢度〟をチェックしながら、商品選択の基準にしてきた歴史がある」(ジャーナリストの嶌信彦氏)
いい社会にするのがいい会社
このほど米アップル社が生産委託などでかかわる取引先156社の〝実名リスト〟を公表して話題になっているが、その背景には「労働環境が劣悪な現地企業と取り引きしているのではとの批判がかねてより報じられる中で、会社の実態をつまびらかにすることで憶測を払拭する狙いもあった」(全国紙経済部記者)と見られている。
さらに前出・竹井氏によれば、
「いまハーバード大の卒業生のうち、20%近くがNPOに就職を希望している。優秀な人材を確保するためにも、企業にとって社会貢献が重要になっている」
少子高齢化。東日本大震災。欧州危機・・・・・・。七重苦、八重苦ともいわれる環境を言い訳にして、赤字決算を垂れ流す企業がある一方で、見てきたように、外部環境にかかわりなくうまくいっている企業はこんなにある。早稲田大学大学院教授の内田和成氏もこう言う。
「いま日本では家族構成に変化が起きていて、一人暮らしの世帯が約1500万世帯、全体の30%ほどにまで増えた。中でも若い人の一人暮らしが多くを占めているのが特徴的です。さらに30代女性の未婚率が増える時代にあって、一人暮らしの女性が冷蔵庫にある、あり合わせの食材で手軽なメニューを作れるようなレシピを提供するクックパッドが業績を伸ばしているのは当然のこと。
青山フラワーマーケットを展開するパーク・コーポレーションは、ターミナル駅に店を構え、安価にブーケを売る。知り合いに花を贈りたい、家のキッチンに花を添えたいと思ったときに、わざわざ駅から離れた花屋にいくのは面倒と考えていた人がその場で買えるから重宝されている」
株式市場の圧力に屈して強引な拡大策に出るのではなく、消費者が必要としていない過剰なサービスを押し付けるのでもない。
世の中の役に立つ商品やサービスを生み出す。自分だけが儲けて、周りを困窮させることもしない。消費者、従業員、取引先、地域社会のみなが一緒に幸せになるために、なにをすればいいのか一生懸命考える。そんな当たり前のことを普通にやりとおせる企業が、いま元気に、日本中で活躍している。
「週刊現代」2012年2月4日号より