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August 16, 2019

『日本人の勝算 人口減少×高齢化×資本主義』

日本がふたたび一流先進国に返り咲くための勝算
『日本人の勝算 人口減少×高齢化×資本主義』
https://diamond.jp/articles/-/198392

デービッド・アトキンソン
 1965年イギリス生まれ。日本在住30年。オックスフォード大学「日本学」専攻。裏千家茶名「宗真」拝受。
 小西美術工藝社社長。1992年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年同会長兼社長に就任。2017年から日本政府観光局特別顧問を務める。
 『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』(山本七平賞、不動産協会賞受賞)『新・所得倍増論』『新・生産性立国論』(いずれも東洋経済新報社)など著書多数。2016年に『財界』「経営者賞」、2017年に「日英協会賞」受賞。


レビュー

『日本人の勝算 人口減少×高齢化×資本主義』 デービッド・アトキンソン著 東洋経済新報社刊 1620円

 在日30年、伝説のアナリストとも呼ばれたデービッド・アトキンソン氏による話題の一冊だ。人口減少・高齢化というパラダイムシフトが起きるなか、このままだと日本は三流先進国どころか途上国にまで転落するかもしれない――アトキンソン氏はそう警笛を鳴らす。だが一方で、日本がふたたび一流先進国に返り咲くための勝算もあるという。
 本書『日本人の勝算 人口減少×高齢化×資本主義』では118人の外国人エコノミストの分析をもとに、人口減少・高齢化がもたらす難局を乗り切るための方法が考察され、日本経済が再生するための具体案が提示される。

日本では今後、人口減少と高齢化によるデフレ圧力が深刻化するため、デフレスパイラルに陥る可能性が高い。

そうした状況下で生き延びるには、生産性を高めて「高付加価値・高所得経済」の国へと転換しなければならないというアトキンソン氏の主張は理にかなっている。


 本書が提言している生産性を向上させる具体的な施策は次の4つにまとめられる。

(1)供給過剰を調整するための輸出振興、

(2)企業規模拡大のためのM&A促進、

(3)最低賃金引き上げ、

(4)本格的な人材育成トレーニングの確立。

本要約ではこのうち、アトキンソン氏がもっとも重視していると思われる最低賃金引き上げの項を主として取り上げた。


 すべての日本人におすすめできる一冊だが、とくに政府関係者や経営者に読んでほしいと強く願う。読み終える頃には、これまで見えていなかった日本の可能性が見えてくるだろう。(木下隆志)


本書の要点
(1)高齢化と人口激減により、今後デフレ圧力が深刻化していくのは疑いない。
(2)デフレ圧力が深刻化する状況下で生き延びるには、生産性を高めるとともに、「高付加価値・高所得経済」への転換が不可欠である。
(3)日本の生産性は世界第28位と低迷しているが、人材評価では世界で第4位だ。そのため生産性の伸び代は大きい。
(4)日本において生産性向上が期待できる経済政策は、最低賃金引き上げである。高齢化と人口激減という難局を乗り切るには、政府による継続的な最低賃金引き上げが必須だ。


要約本文
◆人口減少×高齢化によるデフレ
◇デフレ圧力の深刻化
 日本経済はバブル崩壊後の金融危機を経てデフレに突入して以降、いまだにデフレを脱出できていない。
 政府は「デフレ脱却」に向けてインフレターゲットを設定し、それを達成するまで大胆な金融緩和を講じる経済政策(アベノミクス)を実施した。たしかにこの政策により円高が是正され、株価が大幅に上昇するなど、日本経済は快方に向かっているように見える。
 しかしこれは一時的に成果が出ているだけだ。なぜなら2020年以降、人口減少によるデフレ圧力がますます深刻化するからである。

◇デフレ圧力の要因(需要サイド)
なぜデフレ圧力が深刻化するのか。需要サイドでは2つの要因が挙げられる。高齢化と人口激減だ。

世界を見渡してみると、高齢化社会を迎える国は多々ある。しかし欧米では少子高齢化は進んでいても、人口減少は日本ほど深刻ではない。ところが日本は、高齢化よりもさらに重要な「人口急減少」という問題も同時に抱えている。つまり日本は「少子高齢化と人口減少問題を同時に考えなくてはいけない唯一の先進国」なのだ。
 人口減少はそれだけでも大きなデフレ要因である。そして少子高齢化は、人口減少によるデフレに拍車をかけ、デフレをさらに深刻化させてしまう。

◇デフレ圧力の要因(供給サイド)
 人口減少によって市場が縮小すると、いまあるすべての企業が生き残ることは不可能だ。たとえば消費者の減少によって、10社の企業を支えてきた需要が8社しか支えられない規模に縮小したとしよう。するとどの会社も、生き残る8社に入るように努力する。生き残りをかけた企業間の競争が激化するのである。
 この生存競争でもっとも安易な戦略は、価格を下げて他の企業の体力を奪い、倒産に追い込むことだ。最後まで残った企業は競合先がいなくなるので、最終的に大きな利益を得ることができる。これを「Last man standing利益」と呼ぶ。この行動は強烈なデフレ要因となる。
 この戦略を実行する企業は、最初に利益を削ろうとする。しかし利益が乏しくなると、労働者にしわ寄せがくる。経営者が人件費を圧縮しようとするからだ。これは非正規の増加、ボーナスの削減、サービス残業の増加など、ここ何十年にもわたって日本で行なわれてきたことそのものである。すると企業利益のうち、労働者の取り分を表す労働配分比率が低下する。英国銀行の分析によると、労働配分比率の低下は大きなデフレ要因だ。
 ただし資本主義下におけるLast man standing戦略は、経営側にとっては合理的な選択ということも強調しておかなければならない。

◇人口減少下では量的金融緩和策に効果はない
 金利を下げて量的緩和をしていけば、需給のギャップを埋めてインフレにもっていけるため、「金融政策でインフレ誘導は可能」だと主張する人もいる。この主張は簡単にいえば、「通貨の量を増やせば物価が上がる。物価が上がればすべての問題は解決できる」ということだ。

 しかしこの主張は、需要者の数が一定という想定にもとづいている。アトキンソン氏の考えでは、日銀の2%インフレ目標が実現されない最大の理由はここにある。人口減少問題を抱えている国で供給調整を行なわない場合、通貨の量を増やすだけでは、人口が引き続き増加している国々と同じ2%のインフレを実現することは到底できない。
 現在の金融政策は個人消費の刺激にはつながらず、金融市場で株高などをもたらすだけだといわれている。人口減少と高齢化によって需要が構造的に減少するなか、日銀は銀行に流動性を供給しているが、民間に需要がないため、その流動性が市中に流れていないのだ。
 そのため個人消費を増加させるには、他の経済政策を打ち出す必要がある。それが「賃上げ」だ。通貨量を増やしながら、賃上げを継続していく。そうすれば総需要は縮小せず、モノとサービスの均衡が回復して、インフレを実現することが可能になる。このパラダイムシフトを起こせば、デフレ圧力を吸収し、日本経済を活性化させることができるはずだ。

◆「高付加価値・高所得経済」への転換
◇生産性向上のための意識改革
 デフレ圧力が深刻化する状況下で日本が生き延びるには、賃上げをして生産性を高めることが不可欠だ。日本の生産性は、世界で第28位と低迷している。しかし人材評価では世界で第4位と健闘しており、生産性という点では大いに「伸び代」がある。この課題を乗り越えたならば、日本にも勝算がある。
 生産性を向上させるにはさまざまな工夫が必要だが、もっとも大切なことは「生産性向上のための意識改革」だ。じつは経済成長率を維持するうえで、日本にかぎらず世界中の先進国が、生産性向上に依存する傾向にある。
 マッキンゼーが行なった分析によると、これまでの50年間における世界経済の成長率は3.6%であった。しかしこれからの50年間は、経済成長率が2.1%まで減少すると予測されている。これまでの50年の成長要因を「人口増加」と「生産性向上」に分けて考えるとそれぞれ1.8%ずつであったが、今後50年間で人口増加要因は0.3%まで低下すると見込まれている。つまり生産性向上要因がますます重要になってくるのだ。

 多くの先進国の場合、生産性が向上しなくとも、一定の経済成長を見込むことができる。単純に人口が増えるからである。しかし日本の場合、人口増加要因がマイナスのため、まずそのマイナス分を生産性向上でカバーしなければならない。つまりよほど生産性を向上させないと、経済が成長しない構造になっているといえる。

◇高生産性・高所得資本主義へ転換せよ
 現在の日本の経営戦略は、「低付加価値・低所得資本主義」に当てはまる。その根本的な哲学は「価格の競争」だ。コストを下げて市場を拡大すること、つまり「いいものをより安く」という考え方である。
 この経営戦略の反対の戦略が「高付加価値・高所得資本主義」である。その根本的な哲学は「価値の競争」だ。市場を細分化して、セグメントごとにカスタマイズされた商品やサービスで競争する。簡単にいえば「よりいいものをより高く」である。

 日本はすでに先進国のなかで二流と評価されている。日本の労働生産性はギリシャより3%高いだけで、イタリアやスペインより低い。労働生産性で見れば、すでに三流である。「失業率が低い」というポイントが、ギリシャやイタリア、スペインより上というだけだ。

 日本政府が企業に対し、賃上げ戦略への転換を求める理由もここにある。しかし目先のことだけを考えると、企業には賃上げ戦略に転換するインセンティブはない。市場原理だけでは、日本経済は路頭に迷ってしまう。そうならないように政府は政策を高生産性・高所得資本主義に転換し、企業を賢く主導する必要がある。

【必読ポイント!】
◆最低賃金引き上げで生産性を高める
◇生産性向上に期待される経済政策

 人口増加のような経済成長要因と違い、生産性は自動的に向上するものではない。生産性は誰かが意図しないと向上しない。つまり人口の増加という「自然に成長する経済モデル」から、「人為的に伸ばす経済モデル」への転換が求められている。
 人口増加率の低下に伴い、欧州を中心に先進国は生産性向上のための政策を探求している。そこでいま生産性向上につながる経済政策と考えられているのが、継続的な最低賃金の引き上げだ。なぜなら最低賃金と生産性のあいだには、強い相関関係が認められているからである。


 最低賃金を引き上げている国には、ある共通点がある。それは今後大きな人口増加が期待できないことだ。そうした国々は人口増加による経済成長が見込めないため、生産性向上に対する関心は強い。

 最低賃金が注目されている理由はもう1つある。それは経済への影響度合いと普及率だ。 最低賃金は非上場企業を含めて、すべての企業に影響を与える。そのため政策として使うのに都合がいい。最低賃金を上げれば、企業は労働者にそれまでより高い賃金を払うことになる。すると当然ながら人件費が上がるため、企業は高くなった人件費を何らかの形で穴埋めしようとする。これが生産性を高めるための動機となることを、国は狙っているのだ。

◇「人口減少×高齢化」時代を生き抜く
 日本の人口は今後も減少していく。人口減少の分をカバーし、経済を縮小させないためには、生産性を毎年1.29%向上させる必要がある。ただここ50年間における生産性向上率の世界平均は毎年1.8%であるため、日本でも実現可能な水準と考えられる。
 一方で日本が毎年1%の経済成長を実現するには、生産性を毎年2.31%向上させなければならない。これは非常に高い数値で、一見すると実現不可能なように思われる。しかしこれまでの日本の生産性があまりにも低すぎたことを考えれば、これも実現不可能ではないとアトキンソン氏は考えている。アメリカの生産性は2000年~2007年のあいだで、2.6%成長した。これまで低迷していた生産性の分を取り戻していく、つまりキャッチアップするだけだと解釈すれば、かなり現実性のある数字といえるのではないか。

◇生産性ショックの必要性
 人口減少の悪影響をなくすための生産性向上は、国際的に見ると不可能ではない水準だが、日本にとってはかなり大きな挑戦でもある。なぜならば1990年~2015年において、日本の生産性は年平均で0.77%しか向上していないからだ。
 日本が生産性向上を目指すうえで課題となるのが、40代人口の減少である。2015年あたりまでは40代の人口は増えていたが、それがいまや減少に転じている。世界的に見ても40代はもっとも生産性が高い世代で、その世代の人口が増えると生産性が上がりやすい。ところが日本ではこの世代が減っていくので、なんらかの対策を打たないと、次第に生産性向上に対するマイナス圧力がかかってしまう。

 このような状況を打破していくには、現行の日本的経営・日本型資本主義の哲学を大きく変える必要がある。しかしすべての企業がいっせいに賃上げの必要性に気づき、賃上げに動き出すことはありえない。よって賃上げの実現のためには、政府による継続的な最低賃金引き上げが不可欠なのだ。

 

 

 

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