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November 13, 2019

ハーバードが学ぶ日本企業

恐れのない職場がトヨタの強み ハーバードが見る組織
ハーバードビジネススクール教授 エイミー・エドモンドソン氏(上)
2019/11/4
ハーバードが学ぶ日本企業

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO51507320Y9A021C1000000?&ora

最新刊「恐れのない組織:職場に学習力・イノベーション・成長をもたらす心理的安全性の創出(The Fearless Organization: Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation, and Growth)」は、「心理的安全性」をテーマとした本です。この本を執筆した動機は何ですか。

心理的安全性は学界のトレンド

大きな障壁となるのがパワー・ディスタンス(権力格差)です。パワー・ディスタンスが大きい文化をもつ国や企業では、心理的安全性を創出するのがより難しくなります。フラット型組織であっても、階層的なピラミッド型組織であっても、変化の激しい現代を生き抜いていくには、心理的安全性を創出するような文化をつくることが不可欠なのです。


人間関係より仕事に集中させたホワイトボード

ホワイトボードは、目の前の状況に対する「健全な恐れ」を軽減し、人間関係よりも仕事に焦点を集中させる役目を果たしたと思います。多くの人々が同時に、迅速に行動しなくてはならない緊急時において、「バウンダリー・オブジェクト(異なるコミュニティーやシステムの境界をつなぐもの)」を設けるのは、とても重要なことです。

佐藤 先ほど「人間は将来、起こりうる重大な事態よりも、目の前の人間関係を優先してしまう習性がある」とおっしゃいましたが、増田氏は極限状態においても、メンバーが不健全な恐れを抱くことなく、それぞれの役目を果たせる環境をつくったということですね。

エドモンドソン 繰り返しになりますが、人間は非合理的な決断をする存在です。顧客に対するサービスを向上させることよりも上司からの評価を優先してしまいますし、患者や乗客の生死に関わるような状況でも職場の上下関係を優先してしまうのです。

人間は、「どうやったらうまく印象操作ができるのか」を常に考えています。無意識のうちに「周りの人たちからの印象をコントロールしたい」と思ってしまうのです。そのため、「自分はどう思われているか」という懸念が人間から消え去ることはありません。

リーダーの役割は、人間には、目の前の人間関係よりも、もっと重要なことがあることを示すことです。「印象操作なんてチームのビジョンを達成するのに何の役にも立たないよ」と伝えることです。さらにはチームメンバーが「自分がどう思われているのか」を気にしないで、自由に発言できるような環境をつくることです。

「チーム増田」のメンバーは「こんな報告をしたら上司や同僚にどう思われるか」などと心配することもなく、増田氏に問題を報告し、事態を打開するためのアイデアも提言し、迅速に行動していきました。これはまさに増田氏がすべてのメンバーに正しい優先順位を示したからだと思います。

なぜ私たちの会社は存在しているのか
エドモンドソン 最も重要なのは、職場における心理的安全性を創出することが、会社の存続・成長にとって不可欠であることを社員に伝えることです。「新しい事業アイデアや改善案があればどんどん提言してください」と言われても、その理由がわからなければ、かえって萎縮してしまうでしょう。

その話の中で、「なぜ私たちの会社は存在しているのか」を社員に問いかけることも効果的です。自分の仕事の価値がわかれば、主体的に仕事に取り組めるようになるからです。


私が提言しているのは、
「どんな状況にも謙虚に向き合いなさい」ということです。私たちの生きる現代社会は複雑で、不確実で、予測もできません。新製品を市場に出すときでも、サプライチェーンを管理するときでも、リーダーは「自分の周りの状況はすべて理解できないものだ」という前提で、柔軟に対応しなくてはならないのです。そうでなければ、想定外のことが起こるたびに動揺してしまい、チーム全体がリスクにさらされてしまうでしょう。つまり、「不確実性に対して謙虚に向き合う」ということは、「どんな状況にも賢く対応する」ということなのです。

リーダーが「好奇心」を持ち続けることもとても重要です。人間は「私は現実を正しくとらえている」と過剰な自信を持ってしまうものです。特に大人になればその傾向が強まります。「私の見方こそ正しい」と無意識のうちに思い込み、あえて他の視点から学ぼうとしないのです。会社の経営者や管理職は「リーダーたるもの、確固たる答えを部下に示さねば」と考えがちですが、むしろリーダーの役割は好奇心を持って部下や周りの人に質問することなのです。

リーダーがどんな状況にも謙虚に、好奇心を持って向き合えば、メンバーは自然と心理的安全性を感じることができます。



命令ではなく質問すること

まず上司は部下に、リーダーはメンバーに、命令するのではなく、質問することです。これはメンバー同士でも重要なことです。質問は、心理的安全性を創出するのに役立ちます。上司から意見を求められれば、思っていることを発言しやすくなるからです。

次に、問題を報告されても、怒ったり、感情的になったりせず、建設的に対応することです。私が特に勧めているのは「問題を報告してくれてありがとう。問題を解決するために私にできることはありますか」と聞くこと。リーダーが一緒に解決してくれようとすることがわかれば、チームの心理的安全性はさらに高まります。

大手化学会社、イーストマン・ケミカルのマーク・コスタ最高経営責任者(CEO)は、ハーバードビジネススクールの授業に招かれた際、「CEOとして最も怖いのは、社員も役員も真実を伝えてくれなくなることだ」と語っています。彼は意図的に嘘をつかれることを恐れているのではありません。真実が組織の上まで上がってこないことを恐れているのです。

人は出世すればするほど、保守的になります。中間管理職が自分のチームの中に心理的安全性を創出することに成功し、現場の問題があがってくるようになったとしても、その上の部長が「この件は役員には伝えたくない」と考えれば役員まであがりません。あるいは、部長がその上の役員に自分の部の問題を報告したとしても、役員が「この件はCEOには伝えたくない」と考えれば、CEOにまであがることはないのです。社員が「私の上司は良い報告だけを求めている」と考えている会社は、遅かれ早かれ危機にさらされるでしょう。


平時にも非常時のような協力体制を

リーダーが「今はあなたが会社にとって大切なイノベーションを創出する機会なのだ」ということを示さなくてはなりません。

革新的な製品やサービスを生み出すプロジェクトというのは、社内で「感染していく」と思います。イノベーションのスピードをあげるには、現場に象徴的なプロジェクトをいくつかつくることです。社運をかけたビッグプロジェクトにする必要はありません。大きすぎず、小さすぎないサイズの部門横断チームで様々な製品やサービスを開発して、市場に出して試してみることです。そして、何が売れて何が売れないのか、迅速に学習することです。

プロジェクトづくりで参考になるのは、タフツ大学の経営学者が提唱し、セーブ・ザ・チルドレンのジェリー・スターニン氏によって実証された「ポジティブ・ディビアンス」(Positive Deviance =良い方向への逸脱者)という概念です。これは、集団の抱える問題を解決し、集団全体を良い方向へ導くためのアプローチです。

「ポジティブ・ディビアンス」とは、他の集団と比べて非常識な行動をとっているのに、うまく問題を解決している「逸脱者」のこと。この「逸脱者」は、個人であることもあれば、集団や企業であることもありますが、リソース(ヒト、モノ、カネなど)がなくとも、周りとは異なる戦略やアプローチで問題を解決するのが特徴です。この逸脱者の独自の戦略やアプローチを研究し、その同じ環境下にある人々に適用することは、集団全体の問題を解決するのに有効であることが、フィールド調査から実証されています。

これは外部の人や専門家のアイデアを取り入れるよりも有効なアプローチです。というのも逸脱者の戦略は、同じコンテクスト、同じリソースで効果を発揮することがすでにわかっているからです。

「ポジティブ・ディビアンス」はセーブ・ザ・チルドレンのような慈善団体だけではなく、営利を目的とする企業にも有効だと思います。1つの「ポジティブ・ディビアンス」は、他のプロジェクトにも感染し、やがては会社全体へと感染していくことでしょう。それがひいては、日本企業全体のイノベーション力を高めることにつながると思います。





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